DIRECTOR’S JOURNAL

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA®

COLUMN

2021.04.19

初めて「プロデューサー」ってものを気にする様になったのはこのトミー・リピューマって人。そもそもプロデューサーって人が何をしているのか正直今もよくわからない。さまざまな現場でプロデューサーって存在はあるが、意味があったりなかったりする。もちろんなくてはならない存在ではあるが、仕事の仕方とか能力次第でその存在と見方は変わってくる。結果として、具体的な仕事がどんなものかわからなくても、その最終的な作品のクオリティが一定で良質であれば、プロデューサーとして一流なのだ。時に自分もプロデューサーという立場になることもあるが、トミーと比べるまでもない。

トミー・リピューマは音楽プロデューサー。この独特の名前は一度目にするとなかなか忘れない。彼が一流のプロデューサーであったことは、レコードを聴き進んでいき、数年を掛けながらまざまざと見せつけられることになる。

先日この人の本が出た。まだ読み終えていないが内容はとても興味深い。若い時からこの人がプロデュースするレコードを数多く耳にしてきたので、例えどんなにつまらない話だとしても、興味深いと思えてしまう。そんな魔法にかかったままなのでつまらないわけがない。彼が手がけた作品にどれだけ感動させられたことだろう。大好きになったレコードのクレジットを見るとこの人の名前がある。そんなことってなかなかない。そんな彼の話が書いてある夢のような本である。僕にとってですが……。

この人の字面を見ただけでうっとりしてしまう。それはもう「パブロフの犬」状態。それほどまでに素晴らしい音楽をプロデュースしている。それを初めて体験したのはこのレコード。



ROGER NICHOLS AND THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS
もうこれは奇跡のサウンド。これを聴いた瞬間に魔法にかかる。1曲目のど頭の短いイントロのストリングスで即感電死。大袈裟だけど、でもそのくらいにいい。もちろん、プロデューサーだから作曲とかアレンジはしてないし、これを聴いた時点では彼の名前など全く意識もしていない。ただ、この人が関わる作品には一定のクオリティが担保されてることを後になって理解する。その第一歩。

今だから言えるが、もしクレジットに彼の名前があれば、それは間違いなく買っていいし、僕は買ってきた。基本的にレコードをプロデューサー買いするタイプじゃ無いけど、この人は例外。

それを決定付けるきっかけを作ったのはこのレコード。







MICHAEL FRANKS/SLEEPING GYPSY
これのクレジットを見て、「あれ?このプロデューサー、前に見たことある名前だぞ」となりトミー・リピューマを意識し始める。MICHAEL FRANKSを気に入り何枚かレコードを買い進めていき、その周辺のレコードも買うと大体がトミーによるプロデュースで、彼によってプロデュースされた作品は間違いないと確信する。

もちろん膨大な数の作品に関わっているから全てを網羅しているわけではないけれど、主要なものは大体買ったつもり。中にはあれれ???と思うものもある。そうだとしても、なんとか好きになる部分を見つけるために何度も聴き返す。正直、辛い作業だ。しかし、トミーを信仰している以上それは修行なのだから仕方がない。好きになるまで聴き続けるのみ。「聴くぞ!聴くぞ!聴くぞ!」と強い気持ちで何度も聴く。それをしていると不思議なもので大して良くなくても好きになってしまうのである。いや、好きになる以外に道はない。だって自分はトミー信者なのだから。信者は黙ってついていくのみ。

冷静に考えれば、ここまで来るともう病気みたいなものだ、いや完全に病気である「トミー病」。とは言え、苦行的に聴いたレコードはこのレコード一枚だけである。







STEVE YOUNG/ROCK SALT & NAILS
まあ、好みの問題なのでたまたま僕には退屈なサウンドに聴こえただけなのだろう。まずそのジャケットからして、ちょっとどころかドロドロのぬかるみな感じ。泥にハマって靴が脱げ、そのまま裸足で家に帰らなければならない始末。そんでお母さんにこっぴどく叱られる。そんなレコード。でもね、裸足で砂利の上を歩くのも、お母さんにこっぴどく叱られるのもどうしてか嫌じゃなく思えてくる。それも青春の甘酸っぱい1ページって感じ。

これを読んで興味が湧いて、万が一これらのアルバムを買おうと思っても、絶対にSTEVE YOUNGだけはよした方がいい。大人になって泥だけになんてなる必要ないですからね。ROGER NICHOLSかMICHAEL FRANKSのどちらかにしてくださいね。あとGEORGE BENSON辺りにして、くれぐれもSTEVE YOUNGには手を出さない様に。

挙げればキリが無いが、そんな風に僕は盤を擦り切らす様にしてレコードを聴いてきた。感電したり、痺れたり、涙したり、我慢して聴いたり。もちろんそれが正しい聴き方なのか間違った聴き方なのかわからない。しかし、自分にとってはどれも大切な時間の過ごし方であった。今振り返ってもそれは少しも無駄な時間だったなんて思っていない。沢山の素晴らしい作品を世に送り出してくれたトミー・リピューマを今も変わらず愛し続けているのである。