DIRECTOR’S JOURNAL

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA®

COLUMN

2021.04.12

必ずと言っていいほど、商品と言われるものには試作品が存在する。その試作品というやつは、どれくらいの回数を経て商品になるのか。回数はそれぞれだと思うが試作を重ねて良くなっていく時もあれば、作っても作っても商品にならないこともあるだろう。これは一般的な話ではあるが、CITERA®にだってそれは当てはまる。

試作品は際限なくいくらでも作っていいわけではない。お尻は決まっているし、ただというわけでもない。だからと言って、

「永さん、試作の限度は3回までですよ~」

と言われている訳ではない。作っても3回までにしておきたいし、それ以上作ったことは覚えている限りでは1度もない、はず。

時間的、コスト的な効率を考えると理想は2回で収めることだと思っている。もちろん1回で済む時もある。しかしそれは既にあるものの細部を少し変える、とか、作り慣れている様なものの時くらいで、全く新規で作るものは1回で済むことなどないと言っても良い。



中には、試作品を3回も作っておいて商品として日の目を見ることのないものもある。所謂「ドロップ品」というやつ。そのドロップされる理由は

・イメージした通りにならない
・物理的に作れない
・時間的に間に合わない

といった理由だ。妥協して製品にするか、それともドロップするか。妥協して製品にしても良いことはないのでドロップを選ぶしかない、CITERA®の場合は。







例えば、現在進行中の試作品の中で困難を極めているのが加工デニム。激しいダメージではなく、

「2~3年程よくはいた自然なはき古し感」

を目指している。これが難しい。だって加工なので絶対に自然ではないのだから。

実際の工程として、まず膝下だけの筒状のもの(筒見本)を作り、そこで目指す加工の雰囲気に近づける。それを何度か繰り返し、加工具合のイメージが具現できたら、実際のパンツに全体の加工を施していく。筒見本でうまくいったからといって上手くいくわけではない。何なら振り出しに戻ることもある。それは加工をする職人さんの引き出しにある加工技術をうまく引き出せていないから。それを引き出す様にこちらは

「ここはもっと強弱を出しつつも、ここは優しく撫でる様にetc」

とか、山程リクエストを出すし、イメージを共有するために現物のイメージ見本をいくつも提示する。しかし、 それでも職人さんにこちらの頭の中にあるイメージを見せられるわけではないので、言葉や文字で補いながら伝えたとしても、やっぱり100%は伝わらない。もちろんそれで苦労するのは実際に加工を施す職人さんだ。作業に慣れている職人さんなので腕が悪いわけではない。こちらはイメージを持っているし、職人さんには腕があるのに……。









お互いが出来上がりのイメージを共有できないのは当たり前だ。同じ時間や価値観を共有したことがない人間同士が一つのものを作る。そんなのは無理がある。そんな状況でものを作るのだからすぐにうまくいくわけがない。出会って間もない人間同士が同じイメージを共有できる様になるには一体どうすれば良いのか?

どんなに技術が進歩しても、人間くさい付き合いを繰り返さない限り納得のいく良いものは生まれない。お互いの意見を現場で直接積み重ね、時に関係ない話をし合い笑ったり感心したり。人柄も含めて互いのことを探りつつ少しずつ理解を深めながら、価値観を共有しないとだめだ。

デニムの何が好き?
どこに拘る?
どこを一番の表現ポイントにしたい?
作業を行ってて楽しいポイントはどこ?

などなど、互いの作るものや行動を見て、言わずとも感じられるくらいになることが理想である。









デニムの加工は絵を描く様なものだと思う。そんな風に作り手側と関係作りをし、イメージを共有できる間柄になるべきだ、と自分は考えている。もちろん絵にも様々なものがある様に、どの辺りを狙うかによって、作り手側との関係作りも違う。

CITERA®というブランドにとっては、試作品を作ると共にそういった関係性も作らなければ、販売できる商品として納得のいく仕上がりが得られないし、そんな商品しか世に出したくない。

納得のいく仕上がりになるまではまだまだ時間がかかりそうなのである。また報告します。