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ミュンヘンからベルギーに向かう。
両側2列の小さな機内は、平日のためかビジネスマンが新聞やタブレットに目をやり、到着までそれぞれの時間を静かに過ごしている。
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空港で出迎えるのは「タンタンの冒険」に出てくるロケット。
直球なものが置いてあることに少々驚くが、フォトジェニックなのでみんな写真を撮ったりしている。もちろん自分もその1人。
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ブリュッセル空港からは列車でアントワープへ向かう。
ヨーロッパでの列車移動は初めて。胸が高鳴る。
本当は高速鉄道の1等車で食事でもしながら、と映画の様に車窓を楽しみたいがそこまでの移動距離ではない。とは言え車窓を楽しむ気持ちは膨らむ。
しかしながら優雅に車窓を楽しむほどの余裕はなく、常にファインダー越しの景色であった。
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アントワープ中央駅。「世界一美しい駅」と言われ、その美しさとオーラは言葉では表現しきれない。屋根の鉄骨の組み方を見てもその美しさは伝わってくる。
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駅の上にあるグランカフェが素晴らしいと聞いていたのでしばし優雅な時を過ごす。
一体ここがどこでいつの時代なのか、一瞬わからなくさせる程に美しくゆったりとした時間が流れるカフェ。
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駅を出て真っ直ぐのびる通りを進むと、街の入り口に現れる2対の建物。
同じヨーロッパでもダイナミックなドイツとは違い、コンパクトで建物の細部が作り込まれている。とても細かく豪華な細工が施されている点に美意識の高さが表れている。
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街に入りショッピングセンターがあったので、覗いてみるとこれである。
有名なファストファッションやスポーツなど様々なメジャーブランドがある「普通」の施設がこれなのだから言葉が出ない。
そういえば1月まで東京上野の国立西洋美術館でルーベンス展が行われていたが、そのルーベンスの家がすぐ近くにあると考えると、こういった中世的豪華さそのままの商業施設も当たり前か、と妙に納得できるのである。
とにかく駅を出て30分も経っていないのに、視覚から入ってくる細かな情報量が多すぎるため処理速度を上げるまでに少々時間がかかる。
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少しペースを取り戻し中世感を薄めるため、現代的な店に入ることに。
オランダの低価格雑貨店HEMA。
来店者のほとんどが女性の中、アジア人の中年男性がうろつくのもおかしな画だったろうが仕方がない。
これも普段の自分を取り戻すため。
とは言え、こういう細かなものが溢れた店は嫌いではない。むしろ大好物なので棚の隅々まで物色。
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店を出て通りを1分も歩けばルーベンスの家が現れる。
今回は時間もないので外観のみ。
古い建物を維持しているが、ところどころが新しくなっているそのコントラストが格好いい。
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大して歩いたわけでもないのに驚くほどの疲労感に襲われたのは、脳がフル回転していたからだろう。
糖分を摂取し回復を図ろうと、「郷に入りては郷に従え」でベルギーワッフルをオーダー。
というのはただの卑しい中年のいい訳でしかないが、想像を絶する生地の軽さに驚き「一体どうやってこんな軽さを出しているのか?」と休めるどころかここでも脳はフル回転のまま。
もう何十年もこれを作り続けている老舗のワッフル店なのだから、知識の浅い東洋人が考えたところでわかるわけもない。
糖分を摂り少しは回復し気持ちも落ちついたはずなのだが、まだ生地の軽さの謎にモヤモヤしながら店を後にする。
次回につづく