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コロラド州デンバー。
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まさか自分がデンバーに行くなんて夢にも思わなかった。
デンバーという地名は知っていたけど、どんな街で何があるのか皆目見当がつかないし、想像したところで何も出てこない。何となくアメリカの中央のあたり? と思うくらいで、正確な位置はカリフォルニアから3つ隣の州で中西部といった辺りだ。
最も有名なロッキー山脈がこのコロラド州にあることさえ知らなかった、といった具合。
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そんなに無知な人間がなぜコロラドに? ではあるが、北米最大のアウトドアスポーツのエキシビションがこの地で開催されることになったから、というのが理由。
目的はそのエキシビションなのだけれど、せっかく行くので出発直前に調べてみると、国立公園や動物保護区などが沢山あり、その辺りを観に相当数の観光客が訪れている最大級の観光地らしい。
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とはいえ大自然に行く時間も無いので、街周辺を調べたわけだが、
最大の収穫はCLYFFORD STILLというアーティストの美術館があったこと。
地図を見ていたらこの名前を見つけ、なんとなく程度で名前を知っていたので調べてみると、どうやらかなりの大物だがほとんどの作品を手放さないため一般的な知名度が低いというか、作品が出回らないため展覧会なども行われず、作品を観られる機会がほぼ無いアーティスト、ということらしい。
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さて、その美術館はというとミニマルでとても美しい造り。
シンプルだけど細部がしっかりと作り込まれていて、壁の質感や天井の造りなど、作品に気を取られうっかりしていると見過ごしてしまいそうで油断ができない。
リラックスしながら絵を観ている場合ではない。いちいちかっこいいので、絵を観ながらも建物に目を凝らさなければならない。
そういう意味でも見応えのある美術館である。
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全ての作品に娘による解説がつけられており、作者の内面なども観て取れるので、抽象的な作品であっても非常に近い存在に感じられる。
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とは言うものの独特な形や色使いも多いので、こちらの勝手で季節や場所など重ね合わせたりしていると、頭の中が破裂しそうなくらいにイメージが膨れ上がり、単純に作品を眺めているだけでも楽しむことができる。
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草木や地表、生き物の衝突という感じで自然物を連想させる印象を強く感じた、というのが個人的な感想である。
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デンバーの街と空港を行き来しただけだが、その間の車窓と言えば広大な土地や遠くに見えるロッキー山脈。
この乾いた地表がどこまでも続く不思議な感じは、UFOが現れてもおかしくはない雰囲気がある。実際、過去に隣の州でそんな事件があった。
そんな土地に自然を想像させる抽象画が納められた美術館があるというのは、何とも不思議なことだ。
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広い空間を保って形成された街に、音や光を吸い込む様な凹凸感を持たせた外壁の建物が静かに佇み、ひっそりと身を置きながらもどこか怪しさと底知れぬオーラを放っている様を見ると、このデンバーという街が今まで以上に未知な場所に思えてくる。
一体この街は何なのだ?
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よく若者が使う「自分探しの旅」という言葉を聞くと、「旅に出る前までに自分を見つけておいた方がいい」と思っていたのだが、もし何かを見失っていたり、見えないものを見つけたいと思う人がいるのなら、理由なんて持たずにこの地を訪れ、街をぶらつきCLYFFORD STILL美術館に行けばよい。答えを見つける必要も「自分が一体何者なのか」なんてことを考えることもなくなるだろう。
この街はそんな不思議な街なのだ。