アンカレッジから非常に長い入江沿いに南下していると、「ベルーガポイント」が出てくる。
ベルーガとは「白クジラ」である。
ガイドが「朝の満潮時には現れる可能性がある」というので、そこで車を駐め、海の向こうに見える山や入江沿いに続くアラスカ鉄道のレールといった、なんでもないアラスカの美しい景色を楽しんでいると、遠くの海に白クジラが数頭、頭を出し始めた。
距離があるためあまりはっきりと見えないのだが、それがクジラだということは確認できた。
ベルーガも現れたことだし、氷河のためのヘリポートまで向かう。
ヘリポートに到着し受付の女の子に「アラスカに来て何かWILD LIFEにあった?」と聞かれ、野生動物のことを「WILD LIFE」と呼んでいることに驚きつつも、納得するその表現に胸を躍らせた。
その問いに「今朝ベルーガを見たよ」と答えると、「それはとても幸運なことね。
アラスカで生まれ育ったけど、初めてベルーガを見たのはつい最近のことなの」とのこと。
どうやらそうそう見られるものではないことが窺える。
幸先のよい旅になりそうだ。
ヘリに乗り込み氷河に到着するまでには、クロクマ、ムース、ヤギなどのWILD LIFEがあちこちにいた。
アンカレッジでも年に何度かクマに襲われる被害が今でもでているようで、数ヶ月前にはトレイル大会中にコースアウトした子供が襲われてしまったと聞いた。
人を襲った動物は探し出して殺さなければならない、というルールがあるそうだ。
ヘリの上から観て喜んでいることが複雑な気持ちになってくる。
この地で野生動物をWILD LIFEと呼んでいるのは、残酷だがそういったこととの共存も含んでいることに気づかされる。
もちろん野生動物が犠牲になることもある。
野生動物に遭遇することを安易に喜んでいる場合ではない。
自分にとってもあちらにとっても危険な事態を引き起こすことである。
自然保護の一部として動物保護区があり、そこでは群れからはぐれたり、親を失った動物、絶滅が危惧された動物を繁殖させ自然にもどすためなど様々な理由で、多くの動物が区分けされた広大な土地に放たれている。
人が見学できるようにフェンスが設けられているのだが、手が届くほどに近づける。
皆穏やかに草をはんだりしながらこちらをうかがっている。
冷たい雨の降るなか、動物達とその背景にある景観をながめていると、笑顔も涙もない淡々とした表情のように思えたが、それこそがアラスカの素顔であり、力強く美しくもある自然界の当然の姿がそこには広がっていたのだ。
その姿をカメラで捕らえた今津くん、文章で表現した明日香ちゃん この二人に感謝である。
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