PRODUCT STORY

Entries by CITERA

 

正直言ってしまうと、暑い季節にはバックパックを避けがちだ。だからといって両手の自由度を奪われたくはない。非常に難しいところだ。シェイクスピアの「TO BE, OR NOT TO BE」よろしく、「使うべきか、使わざるべきか」それが問題である。

しかし、今年の夏も深刻なほどに暑い。先日メキシコに行ってきたのだが、あちらの気候のイメージは勝手に「割と暑い国」と思っていたのだが、行くことになり調べてみると湿度は低く、7月の気温も日本の4月末~5月初旬の体感で、夜などは寒い時もあるとのことだった。実際もその通りで、非常に快適な気候であった。そうなると帰国時のギャップが辛い。今回、3週間程行っていたので身体はすっかりあちらの気候に慣れてしまい、帰ってきてからの酷暑がキツいのである。



 

利便性を考えると夏でもバックパックを使いたいが、背中が暑いのは困る。特にこの日本の湿度の高い夏では気が重い。ではその気持ちを越えて使いたくなるバックパックがあれば、使いたい気持ちの方が勝つわけで、暑くてもそこで折り合いをつけるしか無いのである。

できる限り軽くし、バックパック自体の見た目の暑苦しさも抑え、「涼しげ」とまではいかないがどこかクールなイキフン(雰囲気)のあるバックパック。




 

これまで10モデル以上デザインしてきた中で、一番軽いものとなるとこのタイプ(パッカブルのものを除く)。もちろん荷物を入れてしまえば重くなってしまうので、バックパック自体が軽いことに意味があるのかは正直わからないが、気分的には非常に楽である。そしてただでさえ、あっちこっちのコードが垂れ下がり、よく言えば遊び心のあるデザイン(だたデザインとしてあるのではなく、コードはちゃんとその意味を持っているのである)。そのコードは2色で織りあげモノトーンで仕上げた。そうすることで暑さもいくらか気にならなくなるように思える。「暑い夏にバックパックなんて使えるか!」よりも「これなら夏に調子良さそうだ!キャンプ、海、プールなんかに行くのに使いたい!」と意識を後者側に向けられそうだ。

 

それに、撥水性を持つ機能素材と止水ファスナーなどで、急なゲリラ雷雨で濡れたとしても凌げるわけだ。もちろん水辺でもその機能性は役に立つだろうし。そんなバックパックを一つは持っていたいと思うに違いない、と思い寒い冬に夜な夜な仕事場で一人企画をしていたわけである。

そんな風に、この仕事は全く逆の季節のウェアや小物を考えるのが当たり前であり、無茶を承知で考えているわけだ。気持ち的には、反対側の季節を思い浮かべたところで身体の感覚はそこまで追い付かず、うまいこと仕事は捗らないのだ。それでもカラカラの雑巾を強く絞り、ようやく一滴垂れてきた水滴を大事に大事に広げ、企画ノートをなんとか潤わせていくのである。


 

もちろん、また違うバックパックのデザインも並行して進めておかなければさらに次のシーズンの分が追っつかないのであるから厄介だ。でも結局そうやって頭をぐるぐると回転させていることが心地よいというか、快感というか。そのぐるぐるを通り越したナチュラルハイの向こう側に、納得のいく新たなデザインのものが現れるのである。その繰り返しで半年、1年と時間が過ぎ、作ってきたものが積み重なり作り込み感や完成度が高まっていくのである。だからこそ、一つデザインしても使い捨てるのではなく、仕様やデザインをマイナーチェンジさせ、何シーズンか続けて出しているのだ。

時代の流れや流行り廃り、素材や付属のアップデイトなども踏まえると、ずっと作り続けられるものなんて100に一つか1000に一つかもしれないけれど、そのたったひとつを目指し日々様々なものからヒントを得て、バックパックという媒体に面白いと感じたものを落とし込み、使いやすさを持ちつつも何処か他とは違う、面白くて生活にも馴染みやすいバックパックを考えていくのが私の仕事の一つでもあるのです。


 

このINJECT 20というバックパックは、「夏にバックパックは暑い」というイメージを越え、それでも使いたいと思えるバックパック、というのが基本コンセプトですが、そのさらに前の段階の初期衝動からできたものといえるのかも知れません。「かも知れない」と言ったのは、無意識に近い意識の中、自覚しているのかいないのか分からないところにあり、後から追っかけてきてようやく言葉として出せた様に思えるのです。

 

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