PRODUCT STORY

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA


THOMAS MASONと言えば英国王室御用達である。もうそれだけで納得してしまう。ブランディングの一つとはいえ、英国王室にお金を払ってそう言わせてもらっているわけではないだろう。なのでそれを「ブランディングの一つ」というのは違うかもしれないが、製品の良さで英国王室に選ばれ、その結果他人(売り先とかメディア)が勝手にそれをセールス文句として使っているわけである。THOMAS MASONとしてはそれを悪いどころか好都合と考えるだろうから、ブランディングの一つと言ってしまってもいい。こういったことはブランドにとって最高のことである。狙ったわけでも作ったわけでもなく、真面目に良い製品を作り出した努力が報われる最高の形だ。それが他者によって広められた結果「ここは良いブランドだ」と認知されるのだから。ブランド・マーケティングという職種を実務を通し学んだ身としては、本当にそう思う。




そんなことは狙ってできるものではない。もちろん狙うことはできるが、相当の努力が必要である。それは良い製品を作るという努力だからだ。それだけは決してお金では買えない。もちろん時間はかかるだろう。しかし、その努力した時間こそが良い結果を導く。最近の世の中ではとにかく結果を急ぐ。辛抱強さを持たない子供なみに急がされる。経済主導となるとやはりそうなるのだろう。良い製品、良いブランドを作ることは二の次なのである。パッと作ってパッと売ってドーンと儲けて、が正解とされている様に思えるそんな世の流れ。それが悪いわけではないが、それでは長続きはせず、良いものが残らない。良いから残るのか?残ったから良いのか?いずれにせよ、良いものしか残らないのである。






そんな風に書き出したからといって、そんな世の中に嫌気がさし世直しをしたいと思っているわけではない。単純にそう思ったから書いただけである。なので、良いものが生まれにくい世の中だからといってそれが嫌なわけではない。今の世の中のおかげで便利さや楽しさという恩恵を受けているわけだ。そして、もちろん今だって後世受け継がれていくものや、将来的に貴重な品になるものは生まれているだろう。ただそれは時間が経たなければわからないし、世の中の流れに左右されるということもあるだろう。先日までどこでも買えていたものが、ある日突然姿を消し忘れた頃にものすごい価値として見直され、これまで見向きもしなかった人たちまでもが欲しがる、なんていうことが現実に起こることだってあるのだ。

だから、資本主義優先では良いものが生まれない、そんなことを言いたいわけではない。どんな社会状況の中であっても、良いものを作ろう、後世語り継がれるものを残そう、そういう想いを持って何かに取り組む人はいる。社会背景が変わったところで、人間自体が変わることはない。いつの時代もそういう熱い信念とエネルギーを持った人は存在している。そういう人は世の中の変わり目に出てくることが多い。時代が変わる時、何かの大きなショックが社会を襲った時など、そんなタイミングでその人たちが動く。


シャツの話じゃなかったのか?と自分でも思うのだから、読む人はもっと強く思うだろう。そう話の主体はTHOMAS MASONである。現在では残念なことなのかどうかわわからないが、イタリアの繊維メーカーが買収しイタリアで生産をしている。それでも英国王室御用達は変わらないようだ。それはアルビニ社でありCITERA®でもシャツ生地ではないがそこの生地を使ったことがあり、とても良い生地であった。お金だけ持っているどうしようもない会社や大富豪が買ったわけではなく、THOMAS MASONの良さを理解し、これまでのブランドともの作りの歴史に敬意を払い今も運営しているからこそ、そのブランド力は維持されているのであろう。

このCL SHIRTの生地はスムースで繊細だが、ケアをすればとても良い仕立て感が出る。夏向けなので薄さゆえ洗いざらしはシワっぽくなるのはご愛嬌だが、スチームやアイロンで整えてあげればナイスな表情で清々しさを持つシャツである。


繊細な生地ながらもスクエアな雰囲気になるデザインをしているところが、このシャツの良さである。胸のポケットはスクエアで、裾もピシッとストレートでサイドスリットが角を作り、首を少し長めにしているので衿が細長く見え、軽やかだけどカチッとした真面目さを持つ雰囲気だ。そして夏を意識し襟元がワイルドにならない程度に開く様、第二ボタンの位置を低くしている。夏の余暇を思わせる心の安らぎというか、開放感を意識したかった。海風や高原を走り抜ける乾いた風、オープンカーやバイクで受ける風などが裾や襟を揺らし、時折見せる日に焼けた褐色の胸元。そんなことを想像しながら寒い時期にストーブガンガンで温かい室内で描いたのだ。

そんなシャツであれば、絶対に蘊蓄を持つ伝統的な老舗メーカーがいいと思い、瞬時にTHOMAS MASONと決めたのだった。しかし、英国調のトラッド感ではない都会的なタイプがいい。ということで、ディテール感溢れる様に細かいグリッドで尚且つ締まりが良く見える様な黒、そして細かいストライプはよりストライプの見栄えが良いブルーを選んだ。


どちらも洗練された雰囲気であり、リゾート地、都会、どちらでもフィットするスタイルを持っている。この夏、Tシャツで過ごすよりも、こういったタイプのシャツで熱い夏を過ごしてみるのもいいのでは?と、春の麗らかな陽射しを浴びながら思うのである。

BACK TO INDEX