PRODUCT STORY

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA®

冬の移動時はバックパックを使うことが多い。理由は単純、背中が暖かいから。大して入れるものがなくとも背負っていれば背中が暖かい。特にそういった機能的な構造とか素材になっているわけではなくても暖かいというのはとてもありがたい。もちろん、背中のパネルの素材が厚みのあるメッシュだったり、負担を軽減するために1cm厚程のウレタン素材が入っているわけなので、殊更暖かい。歩く距離が長かったり、電車の中では少し汗ばむこともあるほどだ、と大袈裟に言ってもいいくらい。まあ着ているアウターにもよると思うのだけれど。




さてこのCITY PACKERというバックパック、もう3代目となるのだがこいつには割とゴツ目の素材が似合う。ゴツ目というのも変なので、「素材感がある」に言い直した方が良いのかな。もちろん、つるりとしたソリッドな素材も当然合うのだが、今回使ったものや、初代のウールニットの様な質感のある素材の方がよりよく見える。






今回の素材はソファなどに使われるトルコ産の素材。数種の太さの糸で織られており、ざっくりとした風合いに見えとても見栄えが良い。実際はそれとは逆で、しっかりとした打ち込みで織り上げられているのでとてもタフに仕上がっている。そのタフさがデザインとマッチしているのだけれど、特に5cm巾のベルトに付けられたDuraflex社のアルミ製バックルとの関係は最強だ。とても頼り甲斐のあるバックパックに見えてくるし、このベルトの太さもしっかりと安定感のある見た目に一役買っている。

そしてこの生地、遠目に見ると都市の夜景を空から眺めている様にも見えてくる。そう思うと、とても都会的な雰囲気を感じられる。もちろんこれは僕にとってそう見えただけのことだから、そう見えない人だっているだろう。がしかし、がしかしだ、CITY PACKERというアイテム名である以上、このバックパックのどこかに都会的な匂いを漂わせたい。そんな思いがあるからこそ、この生地を目にした時、区画された街にゆらめく灯りの様に思えたのだろう。




そういった見た目のことも大事ではあるが、やはりもっと大切なのは使い勝手だ。もちろんこれは本格的なアウトドア志向のものではないので、登山やバックカントリー専用とはいかない。しかし、そういった機能やデザイン的な要素を持ちつつも都市生活で使いやすい仕様になっている。PC用に設けられた背面ポケット、小物を入れる小ポケット、上着を挟んだり、人混みや電車の中でバッグが嵩張らないように締め上げられる太いベルト。そして黒い中に細かく光るシルバーの糸やバックル、Dカン、リベット、リフレクターがコントラストを作り出し、街を縦断するインフラのごとく配置された太くカラフルなアウトドアコードが色を添え、アウトドアブランドのそれにはない洗練された都会的な雰囲気を醸し出してくれている。


そもそもバックパックなんていうものは、洗練される必要なんてなく、丈夫で頑丈、背負い易くて肩や背中に極力負担がかからないものがベストなのだろう。焚き木を背負った二宮金次郎は焚き木で重い背負子による苦痛を紛らわすために本を読んでいた、という言われもあるらしい、というのは今思いついた真っ赤なウソだけど、とにかく軽くて用途にあった専用のものを選ぶのが良いのだと思う。

しかし、そんなことではつまらないではないか。バックパックもアクティビティとファッションの間で隙間産業的に発展し、デザイン性と機能性を兼ね備え都会的な洗練されたデザインのものがもっと増えてもいいではないか。アウトドアブランドが機能を減らしダウングレードさせたものを通勤に使うのもいいが、それでは味気なさ過ぎる。後ろから見たらみんな同じに見えるぞ。社会における量産型歯車の一つに成り下がるのだけはごめんだ。


少しでもいい、小さな抵抗勢力でいることを忘れてはいけない。そんな思いを胸の中に置きながら街の雑踏に紛れ込み、一つの個性としてしっかりと自分の痕跡を残していくことがより良い未来に繋げられるのであろう。バックパックでここまで話を膨らますのは少々無理があるとは思うが、バックパック一つとってもちゃんと想いの込められたものを使いたいし、使って欲しい。そうでないと本当に味気ない世の中になり、夢のないつまらない未来が来てしまうではないか。バックパックにいちいち気を使える人が一人、また一人と日を追うごとに増えていってくれれば、少しはましな世の中になる気がする。




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