PRODUCT STORY

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA

 

よく人は、「あいつは〇〇にうるさいやつだ」といった表現方法を用いる。それは、その〇〇に対しての熱量がすごく、周りにも影響を及ぼしかねない「少々厄介なやつ」という意味を含んだ表現である。「うるさい」という言葉に、その拘りぶりを周りにも押し付けてくる様が込められているのがわかる。これが上司だったりするとなおのこと厄介だ。食にうるさい上司と共に外回りをした際には、さっと済ませたいランチも時間をかけてわざわざ拘り店に向かったり、お財布事情もお構いなしで予算オーバーなランチに付き合わされる。仕事に口うるさいだけならまだしも、個人の領域まで踏み込んでくる「〇〇にうるさいやつ」は勘弁である。




ということで、ここではっきりと私は「デニムにうるさいやつ」ではないことを断言しておこう。本人が言う時ほど信用ならないものはないが、デニムに関しての偏愛ぶりは認めるが「うるさい」部類ではない。絶対ない(と思う)。「あれはダメだね」とか、「それじゃデニム好きとはいえないねぇ」など、他人が好きで選ぶものに対して否定をしない。そして「デニムだったらやっぱり〇〇でしょ」といった価値観を押し付ける気もない。さらに言えば、見下しもしない。ファストファッションのデニムでもいいじゃない。その人が気持ちよく穿けて人生を楽しみ輝いているならそれでいいじゃない。それがいいじゃない。そう、選択する自由があるのだ。そう、そこには洗濯する自由がある!

洗濯?選択ではなく?変換間違えた?となるのは当然だろう。 僕はリジッドのデニムは洗濯せずに穿く。その洗濯である。あのバリバリのゴリゴリのやつを我慢して我慢してしばらく穿き続ける。ソファ、シャツ、白い壁など至る所にインディゴを擦り付け色移りさせては、リジッドのデニムを鍛え上げていく。なかなか骨の折れる日々の生活ぶりである。家族から「ソファに座るな!」はまだしも、「家でそのデニムは穿くな!」とまで言われかねない。「デニムよ安心しろ、そんな不当な扱いを受けてもオレはお前を一人前に鍛え抜いてみせる!」と心に決め、デニムとの師弟愛を築き上げていく。そしてその第一歩が「洗濯しない」であり、それは誓いの儀式の様なものなのである。






先にも言ったように、上記に書いたことを「みなさんも絶対!」ということではなく、これはあくまでも個人的な好みの話ですよ。買ったらしっかりと洗いノリを落としてから丁寧に穿いていただいて構いません。CITERAのデニムはその様な穿き始めであっても普通に穿いていけば、アタリや穿き癖なども現れ、綺麗な穿き古しのデニムになっていくことでしょう。

ではなぜ私がそんな劇画アニメみたいな精神でデニムを穿くのかをお話しておこう。デニム生地の美しさを感じるポイントに光沢感というのがある。光沢感は糸の表面を平らにすればするほど現れる。未使用の製品にはノリ付けがされており、ノリによってコーティングされた糸は毛羽が抑えられスムースな状態です。その状態を保たせつつ、さらに擦って磨きをかけていくことでより強い光沢を生み出すことができる。とは言え、もちろん使っているわけですから糸の表面は乱され、毛羽立とうとする。そこをさらに穿き続けることによって、擦り押しつぶし余計な毛羽が抜け、表面が平らなハードな糸に仕上がっていくわけです。

そしてしばらく使い込んだ時、自分とデニムに対する頑張ったご褒美として、オアシスである給水地点かの様に洗濯をするのです。するとどうでしょう、全体的に同じ濃度ののっぺりとした生地だったパンツが、穿き癖によってできたシワや擦れる部分から染められたインディゴと付いた汚れが落ち、それに反して擦れなかった箇所に残る濃紺のインディゴによって生まれる激しいコントラストが現れるその奥行き感、立体感。あぁ、まさにこの時を待っていた、という高揚感に包まれながら、放たれるオーラにノックアウトされてしまうのです。




完全にどうかしてますね。だからそんな面倒なことにならない方がいいですよ。そもそも洗わないとかって不潔ですし、コロナ禍で考えたら尚更ですよね。待て待て、なんてことを言うんだ、もう一人のオレめ!途中ちゃんと干したり天然成分で作られた消臭剤吹きかけたりしてケアはしているから大丈夫なんだよ、そんなことは言わないでおくれ。太陽に直接当てたいのはやまやまだけど、太陽光は色が抜けてしまう要因の一つだから日陰干しで勘弁しといてくれよぉ。日々のデニムへの気遣いによる飴と鞭や世間の冷たい目線にも耐えながら、そんな苦労もぶっ飛ぶくらいの素晴らしいデニムと出会いたいんだ!

と、まあこんな理由です。 ヴィンテージデニムを穿いたり買ったする合間で、これは良いかもと思ったその時買えるリジッドデニムを買っては、そんな風に何本も旅立たせていったわけです。そして今CITERAのデニムも絶賛シゴキ中なわけです。なかなかのイバラの道ですが、いつの日かお見せできることを夢見つつこのメルマガを書いています。


次の文章に驚かないでくださいね。さて、前置きがつい長くなってしまいました……。 このCITERAの「06R DENIM」ですが、商品説明にもある様に以前にリリースしているデニムよりも股上が浅く、腰回りも絞ってありながらテーパード具合も大きいので、スッキリとした細めのスタイルになっています。「細め」と言っても世間で言われる「スキニー」ではないのでピッタピタではありません。そりゃ2サイズくらい下げればピッタピタになるかもしれませんが、それならそもそもピッタピタのスキニーなものを買われる方が良いと思いますし、見た目もそちらの方が良いかと思います。こちらのものは、余裕もありながら、裾にかけて綺麗なラインで落ちていってるテーパードタイプのデニムになっています。

生地や作りは依然と同じものになりますので、細かなデイテールはそのままでスタイル違い、といったところ。既に以前のものを持っている方でこの生地や仕様を気にいって下さった方は、その日の気分によってスタイルの使い分けしていただいたり、デニム屋さんではないので、いつ出さなくなるとも限らないのであるうちに買っておき、寝かせておくのも良いかと思います。うちにはそんな「寝かせデニム」が何本もあり、まあそれは困ったことでもありますが、たまにクローゼットから出して眺めては楽しんでいたりします。いつか穿いてやるかならな、と。


人それぞれ何かしらの「偏愛」はあると思いますが、決して人に強要してはなりません。人には選択する自由、いや「権利」があります。06R DENIMが届いたら、まずは洗剤を使わずに洗濯してくださいね。そうすればノリは完全には落ちず少し残り、それはそれで良い仕上がりのスパイスの一つになりますから。






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