DIRECTOR’S JOURNAL

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA®

COLUMN

2021.03.15

これまで、LFOMという月一のコンテンツでは一度に複数の事柄について書いたり紹介したりしてきましたが、先月からはそれを「COLUMN」としてそれぞれに分けて書くことになりました。前回は「旅」に関して書きました。そして今回は「音」についてとなります。

「音」と言いましても様々なものがありますが、ここで言う音は「音楽」についてです。特に何かの音楽について限定するわけではなく、ここでは鳴るものが別のことに作用することを「音楽」とすることにします。例えば、映画のサウンドトラックとか効果音、そしてBGMといったシーンをより心に響かせるための演出的な音、です。ポピュラー音楽からものが落ちる音までなんでもいいわけです。なんなら何も鳴っていないあの「し~ん」という音までも入ります。


 


なんでこんな話をするかというと、CITERA®ではアイテムを見せる表現方法として短い映像を作っています。そしてそれには音がついています。それは僕がその都度イメージに合わせてそれぞれ作っていて短いといえども贅沢で手がかかるやり方です。しかしながら、音楽は著作物ですので勝手に使うことはできません。だからといってフリーで流れているものや、安価で買える音を使うという妥協策は取りたくないのです。

こんな時、自分がミュージシャンでよかったな、と思います。1分前後の短さといっても結構大変です。機械音源だけではなく、ギター、ベース、鍵盤を弾いたり、スネアやシンバルを叩いたりしマイクで生音を拾います。さらにはそれをスピーカーから鳴らし空間上で音を加工したその音を再度マイクで拾う、といった手のかかる作業もします。

例えば、スピーカーをスネアドラムと一緒に段ボール箱で囲いマイクを中と外に設置し、外のマイクはビリビリしたノイズが入るように段ボールに触れさせたり。昔の音効さんの様に赤貝の貝殻同士を擦り合わせたノイズを録ったり、床の足踏み音をエフェクターで歪ませてリズムサウンドにしたり、プラスチック板を揺らし浮遊感のある効果音を作ったり。そんな古典的な録り方で音の土台を盛ります。もちろんコンピューターの中の音も使いますが、そのベースになるアナログ音はしっかりと入れておきます。







Macのプロ用音楽ソフトには山のように音源は入っているのになんでそんな面倒なことをするか?

先の録音方法で録った音の方が情報が詰まっていたり、思いもよらぬ音が生まれたり、よく聞くと変な音がしたり、共鳴による倍音があり音に厚みがでます。手描きの柔らかさとデザインソフトのかっちり感の違い、そんな様なものと言えばわかりやすいのかな……。とにかく、アナログ感を入れ込むことで人の心により届く様に思えます。それ以前に、そういった面倒な音作りの作業が好き、ということがありますけどね。

音は見えない分その違いがわかり難いですが、無意識の中にしっかりと入り込んでくるので、聞こえていなくても情報が詰まっている方がしっかり心に入ってくるものです。音はとても不思議なものです。

普段、様々なデザイン作業をしている中で、直線、曲線、波線、点線などいくつかの要素が目の前で交わっていると、それらが譜面の様に見えてきて、突然頭の中で音が鳴ることがあります。それは脈絡もない音なので音楽のアイデアになることはほぼありませんが、目から入った情報が頭の中で音に変換されるのです。景色や映像を見ていても旋律やリズムが浮かぶことがあります。そちらの方は音楽のアイデアになることは多いです。


 








CITERA®の映像の音はそんな感じで作っています。映像を見て浮かんだメロディやリズムやノイズを手元の楽器やそこら辺に転がってる楽器ではないもの(ビニールに入った空のペットボトルとか)を鳴らし重ねて、料理で言うところの隠し味というやつをふんだんに使っています。

時には、余計なものを入れず素材の旨さだけを使う様に、鍵盤の高音を落とし空間音を調整するだけのシンプルな時もあります。

CITERA®のウェアやバッグ、そして映像も同じ様に、アナログな情報が詰め込まれた物として仕上げる様に努めています。

アナログ的な情報がわかりやすくそして美しく表現されている音楽が手元にいくつかあり、今日はそのうちの一つを紹介しましょう。


 





 


Virginia Astley/ From Gardens Where We Feel Secure

これは凝った録音方法ではない方向での良い例というか、作者の身の回りの音が素直に作品化され、とても心穏やかなサウンド。鳥の囀り、教会や街の音からボートを漕ぐ音とともにピアノ、フルート、ギターなどがナチュラルに鳴り続ける。

想像ではあるけれど、それは作者の生活環境を共有してくれているようである。身の回りにある好きな音を切り取り作品に反映させた手法で、音は違えど自分の感覚と近いように感じます。そしてジャケットの押し花も、作者が近くで摘んだであろう草花と想像できることも、心を落ち着かせてくれるのです。