DIRECTOR’S JOURNAL

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA®

LFOM Vol.13

last friday of month 2020.6.26

早いもので2020年の上半期ももう終わり。
今年の上半期は全ての人にとってタフな時期だったのではないかと。
ここでネガティブな話をしていてもつまらないし、「終わり」とか「タフだった」なんて言っているのはなんとも悲しくなっちゃうので、「もうすぐで楽しい楽しい下半期が始まりますね!」と無駄に元気で希望のありそうなことを言っておきましょう。
「今年の下半期はどこに行こう?海かな?山かな?高原かな?島かな?」と、とりあえず考えてみたのだが「今年の下半期は~」なんて出だしで旅行の計画をたて始めたことは一度もないぞ。
だいたい何で上下で分けたんだ?1年を縦軸で考えているのか?僕の頭の中では横軸だぞ。
前後じゃダメなのか?「前半期、後半期」と口に出してみたが響きとしては圧倒的にカミシモの方がいい。
しかしだ、この文章は上から下に向かって書いている。
だけど2つに分けるなら「前半後半」となる。上から下に行ってるのにだ。
さらに文章は長編になれば「上下巻」で分けるがイメージとしては横軸な気がするのに?これは一体誰の仕業なのだろうか?日常に潜む矛盾は多いがこの「カミシモジョウゲ問題」は根が深そうである。

人というやつはすぐに物事を分けたがる。
その理由は分けていくことで物事が整理しやすくなったり、区切りがつけられるからなのだろう。
混乱した状況をそれぞれ切り離して考えることで理解しやすくなる。
「コロナ後の生活」とか。
確かに理解しやすい。コロナが世界、いや人々の生活を真っ二つに分けた。
もちろん世界をも分けたが明らかに一人一人の中の年表に点が打たれた。
いい悪いどちらでもなく大きな点が打たれた。
ただの点なのか、分岐点なのか、人それぞれではあるけれど大きな点であることは間違いなさそうだ。

僕の上半期は家とアトリエの2箇所を行ったり来たりしながら、考え事ばかりの悶々とした日々だったわけで、自粛が解かれたからといって急に元に戻れるわけでもなく引き続き悶々と考え事をし、外出も少しずつしている程度なのでこれまでみたいに人と気軽に交流する様な状態ではなく、リハビリの様な生活を日々送っています。
そうなると楽しみといえば食事。90%の自炊と10%の持ち帰り。今回はその10%を紹介します。




「buik」



buikさんは青山根津美術館を西麻布の方に下りて行く途中にあるお店。
有名女優がお気に入りにしている影響もあってか来客が絶えない。
もちろん有名女優がお気に入りにしなかったとしても来た人をトリコにする。
細長く厨房メインのこじんまりとしたお店ではあるが、女性たちが切り盛りしとても活気がある。
店内においてある雑貨やディスプレイも、笑顔で元気な彼女たちを表している様でとても和める。
キッシュやサラダなどのランチと焼菓子がメインの喫茶店的な営業。
今は持ち帰りのみだが、7月くらいからは席を間引きつつ店内飲食も再開するとのこと。
自粛中も週一でキッシュは食べていたのだけど、このランチボックスの完成度が高い。
店主であるカナさんはいつも笑顔でハツラツとしている方なのだが、そのままランチボックスにもそれが現れている。
メインは週替わりのキッシュとクロックムッシュが選べてその脇を固める8種の副菜。
メインが抜群の笑顔であり、その8種の副菜がハツラツさである。




8種の副菜は、玄米にヒジキ、キュウリ、オニオン、クランベリー、パプリカ等をハーブと共に和えた玄米サラダ、かぼちゃの種が入ったキャロットラペ、ビーツとアップル、キヌアとケール、ショートパスタ、カレー風味のレンズ豆とカリフラワー、かぼちゃ、そして豆の味香るフムス。
何一つ手抜きがない、いやむしろ少し手を抜いた方が良いのでは?と要らぬ心配をしたくなる程全て手が込んでいる。
もちろんそれ同等にメインのキッシュもクロックムッシュもパーフェクトである。


持ち帰りで時間が経っているのにもかかわらず、キッシュ、クロックムッシュそのどちらもザックザクである。
外国で見つけた美味しいものを日本で磨きあげここまで昇華させた店主のその両腕を切り取って自分の腕に付けたい!と残酷にも思ってしまうほどだ。
そもそもビーツなんて僕らの身体、いやDNAの中に刻まれていないのに質感と味をこれほどまでに舌に合うだけでなく「うまい!」と思わせるほどによく処理できるものだ。
プロ中のプロである。





アメリカやヨーロッパの日常食に徹底的なディテールの細かさを持たせたランチボックス。
ランチボックスなのにこのディテール感は恐ろしい。
デザインやプロダクトは「細部に命が宿る」とよく言われるがここにも命が宿っている。
これはランチボックス界の工芸品である。
大げさに聞こえるかもしれないが、味や方向性の好みがあるにしてもそのディテールワークは必ず感じ取ることができる。
それは店主の食べ物に対する愛と尊敬の念が注がれているからだ。








いつになく熱く書いているが、コロナがあってから見えない外敵から身を守るため人の感覚は非常に敏感になっている様に思える。
事実自分自身の味覚、嗅覚、聴覚の感度は上がった様に思える。
また外食や余計な間食がなくなり、自炊によって刺激物の摂取が減ったことで味覚や嗅覚にリセットが起こったこともあるだろう。
それによりこれまでよりも感じとる能力が上がっているからこそ、情報量が多くとも見逃さずにいられるのである。
とにかくbuikのランチボックスの情報量の多さはすごい。
最新最上級のインテルCPUが欲しくなる程に。
もちろんケーキやクッキーといった焼菓子も 同様である。
口に入れ噛み砕いたその瞬間に、CPUが熱を帯びるほど様々な情報が飛び込みそれを理解しようと必死になってしまう。
美味しいだけではない、楽しいのだ。
自分の機能のポテンシャルを引き出してくれるとでも言おうか。
それは、吹き上がりとレスポンスがいいエンジンを搭載した車を運転する楽しさに近いかもしれない。

buikの食べ物はとても刺激的である。





buik 107-0062 東京都南青山4-26-12 1F
電話:03-6805-0227
営業時間火-土 8:00 - 18:00
http://buik.jp/
https://www.instagram.com/buik_tokyo/

*現在は持帰りのみなので営業時間や内容は電話やSNSで要確認。







梅雨なのでそのために用意したものを少し紹介しましょう。






2~3年に1度雨用のスニーカーを新調しているように思いますが、だいたいがNIKEのACG。
スニーカー以外だとL.L.Beanのビーンブーツで過ごしています。






よく失くすのでニューヨークに行く度にソーホーにあるREIで折りたたみ傘($40ほど)を買います。
サイズが大きく風抜き仕様なので非常に使いやすい。
その分少し重い……。




以前に作ったCITERA®のバッグカバー。
この時期バッグに常に入れておくものとして。







先日、激しい雨の中これ着て出歩いて結構濡れたのですが、すぐに乾くというか拭けば済むのでやっぱりいい。

コロナが社会にもたらした影響は計り知れない。
しかし人間の機能にとってはある意味良いことなのかも知れない。
バージョンアップしたわけではないが、チューンナップする機会を与えてくれた様に思える。
情報量が増えた時代にその情報を感覚からもしっかりと取り入れなければいけないことを改めて実感できた時期なのではないか? 年表に打たれた一つの点は、アームストロング船長のあの有名な言葉にも置き換えられる様な「小さくも飛躍的な点」なのかも知れない。
また一つ大きなものを得られた様な気がしたところで、今回はお終い。
それではまた次回!