2年半ぶりの海外、それはメキシコである。インスタグラムでコソコソと投稿していたのでご存じの方も多いと思うが、まず初めに言っておこう。インスタグラムの画像やこのメルマガで伝えられることは1/10程度、いやいや1/100くらいかもしれない。それくらいメキシコという国は奇想天外でパプニングだらけの国であった。僕にとっては、ですが。経験したことで書けないことも多々あるわけで、「そりゃ1/10、1/100しか伝わらないだろう」なんて思わず、読み進めてほしい。
まず、何をしにメキシコまで行ったのか。数年前よりメキシコのタコスに興味を持ち始め、現地のタコスを見て、香って、触って、味わって、というのをしてみたくなった。そしてそれ自体がその国において、どういう存在なのかを直接感じてみたかったためだ。ただタコスになら、東京にもたくさんお店があるのだからそれを食べ歩けばいいわけだが、そうではない。どうして2分も歩けばタコスの屋台、タコス店、トルティジェリア(トルティーヤ屋)の何かしらが必ず現れる程なのか、それを知りたいと思ったからだ。もちろん、純粋に美味しいタコスを食べたい、ということもあるが、そのためだけにわざわざメキシコまで行く程、贅沢な人生ではない。たくさんのハプニングがついて回ることも知らず、鼻息荒く飛行機に乗り込んだのだ。
標高は2,000m越え、陽射しは強く空気は酷く乾燥しているので目に入ってくるものの解像度の高さに驚く。車の往来の具合、人の接し方なども同じ様に密度が濃いのだ。アジアとも違うし、欧米とも違う。それがメキシコの空気なのだろう。これは写真でも言葉でも伝えられない。そういうことなのである。タコスを体験する前に、タコスの国メキシコを五感で出来る限り吸収しようと、無意識のうちに身体が感度を高めているからかなのか、やけに濃く感じるのである。
タコス。
ウェルカムディナーを済ませ、夜な夜な街の中心地にある超有名店へ。おぉ、これが24時間営業の有名店か、お手柔らかに。なんて思っていると雨で深夜にも関わらず、ひっきりなしにタコスに人が寄ってくる。そしてマスターは目にもとまらぬ速さで肉を叩き、そのシリアルキラーが持っていそうな厚い包丁でトルティージャに肉を載せ皿に盛り付けお客へ渡す。その間1分も掛からぬ程の速さである。ぼさっと見てても注文を聞いてくれるわけでもないので、相手のパスを奪うごとくマスターに食らいつく。
味はといえば、とにかくうまいのである。それが一体何がどうしてなのかは見当もつかない。なかなか雑な料理法であろう肉、とうもろこし100%のトルティージャに自分で好みのサルサとガーニッシュ、そしてライムをかけるだけなのに。
メルカード。
街には市場が地区ごとに点在しており、肉、魚、野菜、果物、スパイスその他必要なもの全てが揃う。メルカードは市場のこと。メルカードには日本でいえば定食屋みたいな店がいくつも入ってて、それぞれが好きなものを食べている。利用者は観光客ではなく、その周辺で働く人や住む人たちであろう。そこに飛び込みタコスを頼むことに。メニューを見たところでわかるわけもないので、人が食べているものを指差し、断片的な片言のスペイン語を駆使し注文。フライドポテトが載っているのが面白い。それをノンシュガーコーラで流し込む。
トルティジェリア。
街を歩いていれば出くわし、昼時ともなれば行列もできるのが、トルティージャ屋。ただトルティージャだけを焼いて売っている。形や種類も様々だが、タコス用のトルティージャはどこも1kg 20ペソ程度。皆2kgくらいで買っていく。その量をどの程度で食べ切るのかは、家族の規模にもよるのだろうが、翌日にはパサパサになってしまうだろうから1~2日で食べ切るのだろう。メルカードの出入り口にあったトルティジェリアを見ていると、「出来立てを食べてみて!」と言わんばかりにトルティージャマシーンから出てきたばかりのものを手渡し、塩を指差し人懐っこい笑顔でこちらがそれを食べるのを待っている。日本のものとは違うとうもろこしの香りと焼きたての香ばしさ、ふっくらと柔らかいのに適度な弾力性が心地よく、素朴でなんてことないのだが思わず「美味しい!」と声が出てしまう。じっくりとマシーンでの一部始終も観察しお礼を言って街に繰り出す。
タコスを食べてばかりも良いのだが、少しくらいはアカデミックに行こう、ということで友人の計らいでとうもろこしミュージアムに向かう。大きな公園内にある旧大統領邸に隣接した、古いとうもろこし加工工場を再利用したとうもろこしミュージアム。メキシコにおけるとうもろこしの歴史、品種とその移り変わり、様々な利用法や口に運ばれるまでの工程など、映像、文献、イラスト、実物を織り混ぜわかりやすく解説されている。フォークアートなども交え、その丁寧な説明により、飽きずに館内を見ることができる。思いのほか頭を使ったのか、腹も減り出しまたタコスが食べたくなる。建物最上階の窓からは公園の木々越に街が見え、次なる目的地の大体の場所をそこから眺める。
建築。
街は彩り豊かで華やに感じる。建築、植栽や街路樹に咲く花も色とりどりだ。ルイス・バラガンによるヒラルディ邸に寄りつつ、次の目的地なのだが、ヒラルディ邸の向かいの家も負けずに格好いい。もちろん、なんでもない家々でさえも街に彩りを与えている。
タコス、タコス、タコス。
中心地を突っ切り街の北部を目指す。そこには一見外からでは分からないタコス店がある。地区としてはサンタ・マリア・ラ・リベラ。吹き抜けの2フロアの大きな店内とオープンキッチン。丁寧に施工されたタイルやレンガで居心地も良い。タコススタンドとは違い、伝統的なタコスお肉料理とそれらをタコスとしても提供している様子。メスカルを振る舞われ、スモークした鶏肉を漬け込んだメスカルは綺麗な琥珀色に変化している。ゲコであるため口を濡らす程度しか味わえなかったが、メキシコを満喫している気分の良さである。
中心から少し外れているせいか、街並みは東京の下町と似た雰囲気がする。街を縦横無尽に走り抜け、少々疲れた身体に乾いた風がとても心地よい。タコスも食べたし、次はディナーだ、と洒落たビストロへ連れて行かれて思うことは、パワーのある街の住人もパワーが溢れているということだ。それは、メキシコの街に宿るエネルギーのせいなのか、メキシコに住む人たちが持つパワーなのか。どちらもであろうことは言うまでもない。
続く