ブリュッセルから陸路でパリに向かう。
日本人にとって陸続きで国が変わる感覚はなかなか不思議なもの。特にEU内ではパスポートチェックもないので、新幹線に乗って県を越える程度のこと。なのに、言葉・文化・習慣も違う場所に行けるなんて素晴らしい環境だ。
パリまではTHALYS(タリス)という高速列車で1時間半ほど。パリ北駅に着くと、セキュリティチェックもなければ改札もない。構内は旅行者、施しを求める者、特殊部隊の様な警備員など様々な人で溢れかえる。
パリに来るのは初めて。乗り換えでフランスの地を踏んだことさえない。出発前に「北駅辺りは治安が悪いよ」なんて言われたりしたものだから、この人混みを見ると緊張して荷物を持つ手が無駄に力みだし、暑さのせいもあるのか背中に汗を感じる。
あちこちから聞こえる物乞いがふるコインの音、様々な聞きなれない言葉、行き交う違う肌の色をくぐり抜け、Uberを呼び駅を抜け出す。ヨーロッパの街並みなのにアジアの雑踏の様な勢いで不思議な感覚が襲う。それは映画でよくあるLSDをキメた主人公の映像を体験している様な気分。不慣れな空気感で脳みそがぐるぐる回る感じ。「これがパリなのか?」思い描いた「オシャレなパリ」ではない。それとも「エスプリの効いたギャグ」とはこれか?など脳みそは空回りし少々不安であったが、窓の外にポンピドゥ・センターやノートルダム大聖堂など知ったものが現われ、気持ちは落ち着きを見せてくる。
今回パリは2日間と短いためあちこち行かず、ホテル周辺をぶらつきつつ郊外にあるコルビュジエ邸を見にいくのが目的。サン=ジェルマン=デ=プレに宿をとり、まずはその周辺を歩き街の様子を伺うことから始める。小さなスーパーから大きなスーパーを覗き庶民の台所事情を探る。マーケットも覗き、市井の人たちの食材の買い物も観察したり。乳製品が豊富なことを羨ましく思う。
街を歩いて驚いたことは、街の景観を統一させていること。モダンなデザインはなくヨーロッパのゴージャスな中世的デザインを維持させている。他のヨーロッパの都市は中世的デザインと近代的デザインがうまく共存しあい、街を美しくも新しい雰囲気にしているので、それを想像していたら全くそんなことはなく、建物の外観は中世感を維持させている。もちろん細かい部分にはモダンなものが取り入れられているが、大枠は絵に描いたような中世的ヨーロッパである。
そんなヨーロッパ建築に辟易したル・コルビュジエが、1930年代、郊外にこれまでにない建築様式で5年もかけて別荘を建てることにしたそうだが、半日街を歩いてみて何となくそれもわかる様な気がする。豪華さではない他の何かを求めたくなる。
パリ中心から電車で30分ほどのポワジーという町にコルビュジエ邸はあり、とても気軽に行けるところであった。横浜の山手とでも言えばわかりやすいだろうか。閑静な住宅街の中に現れる。力強く美しいその建物は高い木々をくぐり抜けると姿を現すのである。自然のリバーブがかかった鳥のさえずりが絶えず音響効果として機能している。