あなたはベストを何着持っていますか?と不意に聞かれることなど、人生において1度あるかないかだろう。実際にこれまでそんなことを聞かれたことなど一度もない。今このメルマガを書くにあたって、改めて自分はベストと言われるものを何枚持っているのか?と自問したことでそう思ったのだ。はっきり言ってしまうとベストを着るということがほとんどなかった。しかし持っている。着たいという思いと、実際に着た時の体感的な事情の不一致があるために着るに至らないのである。私の場合、上腕部が冷えると頭痛が出たり、風邪をひいてしまう可能性が高い、そんな事情である。もちろん全く着ないということはないのだが、完全にインナーとしてしか着ないのである。だから、ダウンが詰まった救命具ほどのボリュームがあるベストなどはインナーには向かないので、それらを着る機会は全くない。しかし何着かは持っているのである。どうかしている。「今年はトライしよう!」と思いなぜか買ってしまうのだ。しかし、この10年以内においてはそれらボリュームのあるダウンベストは買ってはいない。流石に学んだのであろう。
ちなみに、ボリュームのあるダウンベストは思いつくところで3着持っているので、屋根裏や、床下にあるラックをしっかり見ればもしかしたらあと2着ほどある可能性もある。ついうっかり欲しくなってしまうのは仕方ないのである。これはもう病気と捉え、向き合ってうまく抑えていくしかない。この10年ほどはうまく抑えられているのでよしとしよう。
さて、では薄手のベストは何着あるのだろうか?大半がアウトドアブランドのものだと思うが、1着だけ明らかに違うものがあり、それはセディショナリーズのフィッシングベストである。自分で買ったものではないので手元にあるだけだが、まあコレクションの一つであることには変わりない。それを含めるとやはり10枚前後はあるだろう。それらは一重から中綿が入ったものまでとなる。一重のものはスタイリングのアクセント以外に意味があるのか?と言われれば「う~ん…… ないかもしれない……」と自信なさげにそう言うしかない。民族衣装として!とは流石に自分の口から言うことはできない。ヨーロッパ出身でもないのに民族衣装にベストなど持つわけがないからだ。他の国で民族衣装にベストがある国はありましたっけ?
ベストと言われて思い出す強烈な記憶は、やはり「マタギ」であろう。捕らえた獣の毛皮で作られたベスト。猪、熊、鹿などであろうがそれらはかなりワイルドだ。子供の頃に見たドラマなどで、極たまにライフルを抱えワイルドなベストを纏ったマタギが描かれるシーンを観たが、実際にそんな人にお目にかかったことは残念ながら一度もない。昭和49年生まれとなれば、時代的には小学生くらいまでなら出会えそうだが、神奈川県のそこそこの街場で生まれ育った者では、イメージでしか見たことがないのである。そう思うと非常に残念である。毛皮のベスト、いや、もしかしたらそれはベストと言わずに「ちゃんちゃんこ」と言った方が良いのかもしれないが、ここではベストと言っておこう。マタギお手製の、毛皮のベスト、そして足元にも毛皮のブーツ、それに猟銃というインパクトのあるフィクションの様なスタイルを、ぜひ一度は見てみたいものである。
話が半音転調した雰囲気があるので元に戻すとしよう。そんな言い方をして思ったことがある。学がないのでわからないのだが、シャープとフラットの違いがイマイチ理解できない。これは譜面が読めさえすればすぐにわかるであろうことと理解しているので、本当にどうでもいい話だ。しかし、手に取ったボールは全て投げたいタイプなので、ここで少し脱線させておくのも良いだろう……。
例えば「ソ」のシャープと「ラ」のフラットは同じなわけで、それをどっちで表記するのか?そんな疑問が、音楽の学もないのに音楽に携わってしまった者に不意に襲ってくることがある。まあ、そんなことに襲われたところで、困ったことになるわけではないのでいいのだけれど……。本当にどうでもいい話だ、話を元に戻そう。
それで結局、自分の着方として一番使えるものは薄い中綿のベストをジャケットやアウターの下に着る、というそんな着方なのである。ここで先のシャープ、フラット的に言えば、シャツやニットの上に着るとなるのだろう。そんな言い方どうでもいいことだ。
秋が深まりだすシーズンに、インナーとして使う中綿のベストは最高に頼れる存在と思っているのだが、これを単体でとなると自分の場合、非常に頼りにならない危険な存在となってしまう。もちろん「みなさんもそうですよね?」などと同調を求めるつもりではなく、むしろそんな自分がどうかしているだけであって、本来ベストは寒さを緩和させるためのレイヤーではなく、単体で楽しむべきファッションアイテムとして存在している。私もその様に楽しみたいと思っているが冷えが怖く、そして妙に胴体部だけ暑くなってしまうのもどこか心地悪いとも思えてしまい、中綿ベストは保温性を高めるためのレイヤリングの便利なアイテム、と機能としての存在価値で認識してしまっているのだ。
もちろんそれでも良いのだが、せっかく手に入れたものであれば使える時期に使えるだけ使いたい、そう思うのが人というもの。少し暑いかもしれないし、物足りなくて寒いかもしれないが、そこに臆せず勇気を持って着ることが必要なのである。そう書くことで自分を鼓舞しているのだが、頭で考えて尻込みするのではなくとりあえず着用して外に出て、そのベスト(VEST)が自分の心と身体にとってベスト(BEST)かどうかを体験するのみだ。
ベストとしてベストなものを作り、そして着ていただきたい。 そんな風にダジャレ混じりで茶化しつつも、CITERAらしく、表情のあるトリム、作りとルックスの良いファスナー、刻印の入ったリベット、ポケット、背面腰位置の帯などディテールを効かせた作りにすることで、トライしがいのあるチャレンジングなベストになったのである。