

先日、「BlackBerry」という映画を観た。そうBlackBerryとはあのキーボード付き携帯ブラックベリーのことである。90年代アメリカで生まれ2000年前後にアメリカ市場で大ヒットした携帯端末の、そんな伝記映画があったなんて全く知らなかった。 Netflixで何気なく観始めたら引き込まれて最後まで楽しく観れたのには、その端末の存在と作り出された時代背景を共に生きてきたからだと思える。老若男女が楽しめるものではないのは明白であり、しかも日本ではBlackBerry端末は大して普及しなかったこともあり、名前や存在はよく知っていても馴染みがない人が多いはずである。 当然私自身も使ったことはなく、身の周りでも使っている者はいなかったのである。興味はあったし使ってみたい気持ちもあったが、自分の環境として手元の端末でタイプをすることの重要性を感じていなかったのが使わなかった理由である。 シューズ会社に勤務しPC作業が殆どだったためメールもPCで十分だったからだ。
話を映画「BlackBerry」に戻して。オタク仲間が集まった冴えない零細企業から始まり、紆余曲折あってビッグビジネスに発展し時代を掴むのも束の間、iPhoneの登場により失速。 そんな話であるが、90年代アメリカン・ユースカルチャーの隅っこで生まれスターダムに駆け上がっていくその疾走感が面白い。 直接的には関係ないが、ソニック・ユースやニルヴァーナ、スパイク・ジョーンズ、エックスガールなど非常に大きな括りではあるがオルタナティブと称され爆発的に世界に伝播していった若者文化と同様の匂いが根底にあり、それがこの映画をただの伝記映画として終わらせていないところに面白さがあるのだろう。 もちろんこの映画にその時代の音楽、ファッション、デザインについての関係性は皆無なのだが、その時代独特の匂いはプンプンとしている。言ってみれば、Appleのスティーブ・ジョブズやテスラの創業者であるマーティン・エバーハードがヒッピー文化の中で育ち、その時代の思想が反映されている様なものである。ちなみに、ジョブズはサンフランシスコ、エバーハードはバークリーで生まれ育っている。 しかしながら、ジョブズの伝記映画は面白くなかったのであるw。 エバーハードは映画にならないだろうし、仮にテスラのがあったとしてもイーロン・マスクの話になってしまうに違いない。

1960年代から70年代中盤まではヒッピー、サイケデリア文化というドラッグに触発された爆発的な創造性を生み出した時代があり、その反動として時代は精神的なものから物理的な拝金主義の80年代に移り変わっていき、90年代にはまた若者による新時代的な文化が生まれ、音楽やファッション、アートを中心に新しい市場を作り出し、大手を凌駕するほどに成長しその延長線上として今また拝金主義が世界を席巻している様に思える。 だからこそ、まだ何もない何かが生まれそうな燻っているものに改めて共感するのではないかと自己分析をしつつ、懐古主義とも思われそうだが映画「BlackBerry」が魅力的に見えてくるのだろう。

そこでもう一つ気になるのが「C86」というキーワードである。これは一体何であるかだが、イギリスのとても小さなムーブメントを意味するワードがあり、それは1986年に発売された「C86」というタイトルで発売されたコンピレーションアルバムのこと。 そこに収められたアーティストたちは、世代的にパンクに乗り損ねサッチャー政権による廃滅的な経済背景に絶望した空気感を、パンクの様にストレートな反抗的スタイルに反し、イギリス人特有の皮肉めいた精神によってパンクを否定する様な知性的なスタイルでアートスクールに通う様な学生たちが表現した社会に対する不満の形なのである。

彼らはモッズに象徴される軍物のアノラックジャケットを纏いながら、モッズの様にスーツを着るのではなくストリートに寄せたトラッカージャケットやレザーなどを好み、ニューロマンティックに浮かれた80年代イギリスをアメリカンカルチャーを取り入れたスタイルで嘲笑いギターを掻き鳴らしていた。 それが英国インディーポップ精神となり、C86という遠心力を持った小さなムーブメントを作り出したのである。 このムーブメントから出てきたわけではないが、OASISというバンドも同じように、曇り空の続く日々を明るい未来も持てないワーキングクラス精神をエネルギーとして同じシーンから少し後に生まれ、成功まで駆け抜けた人たちである。

基本的に若者というのはお金を持っていないために、軍物を身につけるものだ。特に80年代というのは世界大戦からベトナム戦争によって膨大な数の引き払われた軍物が溢れかえっていたのだろう。 さらに反戦という意味もあるのかもしれないが、それらを身につける理由は容易いものであったと予想できる。音楽を作る者のファッションから広がり、今ではどんなレベルにおいても軍モチーフのファッションは人気であり、コレクションの中では欠かせないものとなっている。 安いものから高いものまで、世界中にミリタリーアイテムが広がり、その発端は戦争であり音楽であり、どちらも人を興奮させるという共通する側面を持っている。だからこそそこには魅力があり、そこに気がつかなくても身に纏いたいと思い、年代やジャンル、レンジなど関係なく様々な層に根強い人気があるのではないか。

そこから見えてくるのは、やはりバックグラウンドがあるものこそ魅力的に見えるということだ。 目に見えている部分はもちろんだが、その見えている部分をさらに押し上げる効果を担うのがバックグラウンドだ。 映画「BlackBerry」が魅力的に見えたのはその時代が生んだ様々な文化的な側面があったからこそであり、その携帯端末にフォーカスし過ぎていたり、作った本人のパーソナルな部分を掘り過ぎていたのなら、つまらないただの伝記映画に成り下がっていたのかもしれない。 どちらにもより過ぎずに余白を持たせ、90年代に最も重要だった若者の「趣味にハマる感と身から溢れ出る裕福な時代が育んだユルさ」をうまく表現し、観る者の感性を共鳴させるのだ。 そして同様に「C86」という言葉にも様々な文化的背景が隠されている。そのC86の象徴と言ってもいいものがM-51という形のコートであり、その原型を崩さずに余白も持たせ、現代的なスマートさとどんなスタイルにも合わせられる仕様に仕上げたのがこのC86 COATなのである。アイテム自体の詳細に関しては、商品ページを見たり実物を手にし身に纏って感じ取っていただけると嬉しいです。
