
ここ数年、年を追うごとに最高気温を更新しているような気がしますが、気がしますというのはあんまりそこを正確に把握してしまうのも怖い、そんな気持ちがあるからかもしれません。データとしてちゃんとあるのだから正確なことは調べればすぐにわかるわけでして、それであっても調べたくもない、という暑さへの嫌悪とでも言いましょうか。 暑さというのは、毎年その都度実際に体感している中でなんとなく記憶に残っている程度で、いちいち去年の暑さを肉体に記憶として蓄積させているわけでもなく、いや、むしろそれができたのならどれほど良いだろうなどとも思ってしまう。 現在、台北に来ているのですがむせ返るほどの暑さの中で街を歩いていて、「この熱を溜めておくことができたらどんなに冬が楽だろうか」と、湿度と暑さで朦朧とする頭に出てくることといえば、そんな子供が考えそうなこととこの暑さを呪うことくらい。
「エジプトでのピラミッド建設で大きな石を運ばされた奴隷に比べればなんてことはない」と、この暑さの中石も運ばずに街を観察しながら数キロも歩く自分はまだまだラッキーなわけでして、なんならすぐにでもタクシーを止め冷房の効いたホテルまで戻ることだってできる。 しかし、それはせずに決めた場所まで視界が揺らめくほど最高に蒸し暑いアスファルトの上を歩き、時折吹く風と脳内で浮かぶ「この暑さを蓄積しておけば冬は過ごしやすいぞ」という妄想で自分を誤魔化しながら、自らの足を一歩ずつ前へ押し出し屋台でオーギョーチーを見つけては、有形なのか無形なのか崩れそうでいて崩れない曖昧で不思議な粘り気のあるゼリー状のそれを流しこみ生きながらえる。 喉を滑り食道を経て胃に到達するまでの短い時間の中で体内の熱を吸い上げその役目を終えるオーギョーチーよ永遠なれ。 そんなわけで、暑さというものは何となく覚えている程度のインパクトしか与えていない様にも思える。その都度涼をとり暑さを誤魔化すことで都合よく忘れているのかもしれない。覚えていたりその熱を体に蓄積していたら、リチウムイオンバッテリーが何かの不具合で燃えてしまうように、人の身体も燃え尽きてしまうことだろう。結局のところ、「喉元過ぎれば……」その程度のこと。

2025FWがそろそろ始まります。まだまだ残暑は続くけれども秋冬の洋服のことを考えながら日々のルーティンを繰り返すことで気づけば暑さなんてどこかへ消え、毎年観測記録を更新するクレイジーな猛暑のことなど棚上げし、無断変則的に切り替わる思考でこの冬をどう楽しむのか考えることとしましょう。

仕事上スーツを着なければならない時などない人は多いかもしれないですが、年齢を重ねた時に何となく着たい、という気持ちが芽生えはや10年ほど。四十を過ぎればそんな気持ちも出るもので、実質的に必要のないものではありながらその気持ちに応えられるスーツを探す旅も随分と遠いところまで来た気がしますが、まだまだその旅は終わることがなさそうです。 今シーズンのCITERAのスーツは(頭の「今」を強調して大内純子風に)テクニカルスタイルと共にスウェット地を使ったものも用意してみました。これまでのテクニカルなものたちと比べるともっと着やすいものであるかと。平たく言えばただのスウェットジャージの上下でしかないわけですが、休日のやる気のない部屋着スタイルとは正反対の位置にあり、街に自然に着ていくおしゃれ着なわけであります。 先ほどは平たく言いましたが、今度は乱暴に言いますと「とりあえずいいから着ておけ」なわけです。 それは言葉が乱暴なだけで、意味としてはそれを着れば何とかなる、ということです。何でしょうね、その何とかなるって……。何が何とかなるのでしょうか?奥さんとの仲でしょうか、それとも歳頃の娘との関係でしょうか、それともいつまでも続く残暑でしょうか……。

テクニカルスーツの方はシリアスなビジネススーツほどではありませんが、それでも少しカチッと見えますのでその「カチッ」がなくカジュアルファッション的な中でほどよく洒落っ気を出してくれる、それが「何とかなる」の本意です。 そう、何とかしてくれます。何十年とやってきた「さて今日は何を着るか?」というこの自問。自分に問うてるのか、服という物体に語りかけているのか、「そんなもの好きなものを好きな様に着ろ」と乱暴に言ってくる自分も時にいますが、若干この行為にも飽きてきたり面倒を感じる時もあったり。 基本的にワードローブから洋服を選ぶことは楽しい時間ではあるのですが、時間のない時や気分が乗らない時などは、その問いは鬱陶しくもあるわけです。そんなことから解放されるために同じものを買い揃え常にそれでいる、なんて方もおられると思いますが、それって極端過ぎて現実的ではないかな、と。もちろん否定はしませんし、それをやれる度胸もないというのが本当のところ。

なので、そういった時間や心に余裕がない時の「とりあえずいいから着とけ」というのがそれ。とにかく困った時に2塁打ヒットを打ってくれる人、いや、服。そんなスウェット上下です。もちろんテクニカル系も同じ様にその様に機能しま……せんねw。 流石に野山に遊び行くのにあのジャケットはやり過ぎですね。パンツだったら大丈夫ですが。でもそのパンツにバッファローチェックのカバーオール的なシャツでも問題はない。
シャツ、テクニカル、スウェットそれらジャケットに合わせるニット生地のものやカットソーなどとてもミニマルに収めた秋冬のアイテムたちがもう少しで登場しますので、あなたのファッション性を含めた生活スタイルにフィットするものがあれば、試着感覚で実際に袖を通し体感してみてください。 時代に合っているのか正確なところは分かりませんが、その時代と日々変わる気温や世の空気感の蓄積によって今出てきたものがそれらでありその形です。ただ言えるのは、物質なので使うことで劣化はしますがスタイルとしては古くならないものであることは確かです。 流行りとは無縁なので擦り切れたり、見窄らしくならない程度まではどうぞご贔屓にしていただければ、送り出す側としては嬉しく思います。今シーズンもどうぞよろしくお願いします。