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ピケ素材のトラッカージャケットに5ポケットパンツ。こういったアイテムは本来アメリカンなもの。しかし、私にとっては非常に80年代のイギリス的なアイテムなのである。トラッカージャケットが生まれたのはもちろん60年代のアメリカなわけで、イギリス的であるわけがない。では何がイギリスなのか。

80年代イギリスのポストパンクシーンにおいて、トラッカージャケットのスタイルが非常によく見られたのである。デニムではなくこういったピケやスウェードなどに、すっきりしたシルエットのブーツなど合わせていた。恐らくそのスタイルのルーツは、60年代のアメリカガレージミュージックなのだと思う。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなど、東海岸のその当時に洗練された都会的な新しいロックミュージックシーンに見られたスタイルだ。80年代のイギリスで新しい音楽を志した文化系の若者たちは、ビーチボーイズの様な明るい西海岸的なものよりも、ルーリードが描いたダークで地の底から湧き起こる得体の知れぬ混沌とした抜け出せないバッドトリップ的世界観に、70年代から続くイギリスにおける先行きの見えない絶望的な社会情勢を感じ取っていたのかも知れない。パンクの嵐が去り、パンクが否定していたアメリカンカルチャーを存分に吸い込み、荒削りで瑞々しくイギリスの曇り空の様な抜けきらないくぐもった質感のサウンドをトラッカージャケットを羽織り、かき鳴らしていたのである。

 





話をアイテム自体に戻しましょう。ヴィンテージ感のあるピケ素材で作ってありますが、多少現代っぽく違う素材を合わせてみたりして、スタンダードなアイテムも気分を変えて着られるのではないかと。ジャケットに関しては脇と袖のパネルに、パンツは腰位置のヨーク部に使っていますが、どちらにもメッシュを挟んでいるのんで、直接肌が触れてもベタつくことはないのでご安心ください。

さて、その使っている素材である「ピケ」ですが、いったいなんでございましょう?特別変わった素材でもなく、お洋服好きな方ならよく知った素材であるかと思います。しかしそれがなんでピケと呼ばれているのかは分からない方が多いのではないか、と思ってみたりしました。

コットンでツイルよりもしっかりとした畝があって強度もある生地、ということはわかるけれど、それがなんでピケという呼び名なのか?ということです。正直言いますと、私自身もなぜピケというのかはよく分かりません。その呼び名自体はフランス語だそうで、しっかりと凹凸のある織り方のものをピケと呼んでいるそうですが、そもそもフランス語のためにピケの意味がまずわからない。その織り方とピケという言葉がどういった意味をもって繋がっているのか検討がつかないのです。例えば、ピケという地域があって昔からそこで織られていたからとか、生地の表面とピケと呼ばれる何かが似ていたからとか、明確な理由があればいいのですが、フランス語にも文化にも疎いために分からないのです。

 





デニムジャケットにおいて3rdと言われているこのデザインは、当時画期的なデザインだったのだと思う。胸にV字を描いた大胆なカットデザイン。2ndから継承されたダブルポケットもVに合わせた様にホームベース型になっていたり、1stから2ndへの進化を遥かに上回るアップデートが見られることが非常に面白い。人々の暮らしや文化的な面でも豊かになっていった余裕のようなものが、こういったところにも現れてきたことを物語っている。作業着から若者のオシャレ着になっていった証であり、時代を反映した歴史的な断片とも言え、ただのスタンダードアイテムとして無意識に着流しているのは申し訳ないほどであるが、いちいちそんなことを意識しながら日々のファッションを楽しむなんて面倒なことはするべきではない。だからこそ、ジーザス&メリーチェインやベン・ワット、オレンジ・ジュースといったバンドやミュージシャンが着ていたから着る、というただのミーハー心で着ればよくて、それが一体なんであったのか、そしてその背景には何があったのかなどはそのうち勝手に理解できる時が訪れるものだ。そうして少年たちは大人になり知識を身につけ、過去にあった大切なものをまた次に繋いでいくのだろう。世界はそうして回っているのだ。
 





ボサボサの頭で薄汚れたシューズというわけにはいかないが、本当はそういった乱暴なスタイルであって、同時代のスタイル・カウンシル的なタッセルローファーにホワイトジーンズのトラッカースタイルではないのだ。それはそれで格好いいのでそのうちそういったスタイルも持ち込みたいとは思っているが、それは今ではない。いつの時代も若者文化というものは魅力的である。音楽シーンからスポーツ、モーターシーンと若者が生み出す斬新なスタイルが新たな世界を作っては人々に輝きと潤いを与え続けていることは尊いこと。

 





だからといって、こういったスタイルが若者しか似合わないわけではない。大人になった今でも着続けるその姿勢こそが違ったスタイルとして魅力的な印象を作り出してもいる。もちろん若い時のそれとは違うかも知れないが、いつまでも自分の思い描く格好いいスタイルを追い求めるべきである。誰が着たとかそれの価値がどうとか関係なく、自分で付加価値を作るくらいの気持ちで余計なことに捉われず、好き勝手に着倒すべきなのだ。

 





歳をとってしまうことがネガティブな要素で捉えられてしまうことは悲しいことで、時間を使い続けているというのは収穫を得る機会が増えるわけなのだからこんなにもいいことはない。正直、若かろうが若くなかろうがどっちだっていい。子供の頃に無意識で楽しく生きていたのと同じでいたいだけだ。そのためにトラッカージャケットを着続けたいのだ。CITERAの様なブランドがそれを作るというのは、そういったアティテュードを持つブランドだからなのだ。

歳はとってもボタンはピカピカに輝いているのである。このアイテムやデニムで使うボタンを新調したのだが、今回は磨きをかけてピッカピカに受けた光を反射する仕様になっていることを付け加えておこう。


 





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