前回のストーリーはMA-1で今回はデニム。この2つは90年代のストリートカルチャーを燃料に思春期を過ごした者にとっては大好物なもの。あとこれにスニーカーが加われば3銃士が揃うと言ってもいいだろう。当時、どれもヴィンテージは高騰し古着市場はしばらくバブルとなった。スニーカーは復刻版を再発させることで古着や並行輸入から市場を奪還し、その後もスニーカーブームを続けた。最近になりそれもとうとう陰りが出てきている様子。ミリタリーは特定のモデルや著名人着用による偏った高騰以外は落ち着きつつも、絶対数の限られる歴史的価値があるために、そこそこの妥当な価格感で今も安定的なマニアたちの存在により、その価値は守られている。さてデニムはどうか?こちらもミリタリー同様に歴史的価値は年を追うごとに上がる一方であることと、ミリタリーとは違いヴィンテージデニムとしての存在感にまた新たな視線が注がれ、特定の年代とモデルに価格高騰は集中しつつも、全体的に底上げの価格状態である。と筆者は見ている。
高額のものを買って来た立場ではないので、市場の動きに左右されることはないのだけれど、その動きを見ているのはとても面白い。90年代以降の価格高騰は、加工デニムの技術が高まることで2000年代に入るとヴィンテージデニムの流行りに陰りが出始めた。市場はリアルでありつつもヴィンテージにはない斬新で目新しい加工ものに注目し、安くはないがヴィンテージより遥かに安い良い加工デニムを選ぶようになっていった。
そこに追い討ちを掛けたのはリーマンショックである。ヴィンテージデニムとリーマンショックには関係がなさそうであるがそうではない。コレクターやマニアが手持ちのヴィンテージデニムを市場に売り始めたのである。古着屋に状態の良いヴィンテージが豊富にストックされることで、まさかの飽和状態になったのである。この時が底値だったと思う。その時、1950年代前後の米デニムメーカー最大手L社501XXの「片タブ、革パッチ」と言われるモデルのワンウォッシュの最高の状態でゴールデンサイズW33x L32が40万円で売られていた。おそらく全く同じものが今であれば、安くとも5倍はするであろう。今ヴィンテージデニムは90年代よりもさらに高価なものになってしまったのである。
CITERAがデニムを出し始めた頃から加工もののことは考えていたのだが、どこに着地をさせるのが良いかわからなかった。リアルなのかクリエイションに寄せたものなのか。ブランド的に考えればリアルなものになるのだが、リアルなものとなるとヴィンテージを穿いてきた者にとっては、非常に難しい工程になることはわかっていた。加工は加工でしかないわけで、本物を超えることはできない。超える必要はないのかもしれないが、自分が穿きたいと思えるところまで仕上げられるのかは不明だ。加工を施す職人とどこまで意思を共有できるか、またその職人の癖を活かすのか殺すのか。職人はこちらのその思いに付き合ってくれるのかさえもわからない。怒られてもいいから、あちらが根気負けするくらいこちらが求めるものを理解してもらうしかない。
それを「妥協しない」と言えば格好いいのだが、職人からしたらはっきり言って「迷惑なやつ」としか思われないだろう。しつこいストーカーの様に何度でもやり直しにやってくるのである。ウザいことこの上なく(泣笑)それはこちらとしてもなかなかキツいことでもある。あちらが「付き合いきれない」と匙を投げてしまったら、また一からやり直さなくてはならないからだ。あと、単純に人に嫌われる様なことはしたくない、とも思っているからだ。なのでとにかく、しつこくしつつも嫌われないギリギリのところでなんとか完成させる必要があったわけで、結果から言えばなんとかなったわけである。それがこの加工デニムである。ある意味、嫌われなかったことの証でもある。ディテール的なことは商品ページに説明がある通りなので、こちらでは割愛とさせていただこう。ぜひ商品ページの説明を見ていただきたい。
ではこちらは一体何をターゲットとして加工を表現したのか、それを書いておこう。加工だからと言ってヴィンテージをベースにしたわけではなく、米デニムメーカー最大手L社が2003年頃にリリースした日本製の501ZXXがある。マニアックな細かい仕様は置いておき、天然の藍で染めた糸で織り上げた生地を使い製作した特別仕様のこのモデルを、リリース時に新品で買い3年ほど週5くらいで穿き込み、それ以降は不定期ではあるがトータル7~8年かけてそこそこの状態までに穿き込んだもの。実際に自分で初めから穿き込んだものをターゲットに使うことが最も良いと考え、それを今回の加工ターゲットとし激しく色落ちした箇所、色残りのある箇所との濃淡を出すことで、リアルなルックスになっている。腰、腿、脛、ふくらはぎや、ジッパー周りの横に走るラインの辻褄あわせなど本当に穿き込んだもの同様に忠実に表現されている。
いろんな加工デニムを見て思ったことは、細かいポイントへのこだわりは強いが、全体的に見てみるとどうしても加工感が強く出ていることである。そこがわざとらしさの表れとなり個人的に加工ものが好きになれない理由である。そこで、CITERAとして加工デニムを製作する上でポイントを設定することにした。1汚さない、2ダメージ(ほつれ)は作らない、3濃淡を出す、この3つだ。CITERAのその他のアイテムはどれも上品であることが大きなポイントとなるので、そこは譲れない。ということで1と2は絶対となり、それに追加した3がリアルに見える加工であることの条件である。激しいダメージや斬新なデザインではないため、目のやり場が少なくなり加工としては非常にハードルが高くなることは明白だが、そこにチャレンジすることがCITERAとして意義のあることだと思える。