PRODUCT STORY

Entries by Naoki Ei, the Director/Designer of CITERA®

06DMG DENIMの「DMG」。どうしてもまだゴワゴワ、「だめだ もう 我慢できない」などひとりニヤつきながら、硬いデニムの語呂合わせに当てはまるどうしようもない言葉を、いくつもいくつも考えては時間だけが過ぎていく。

そう、その時間の経過というやつがデニムにとって大きな意味を持つ。「時間」というものが与える影響は大きい。長いこと穿かれ色が落ち、穿きジワや傷やシミなども付き、時間と共に様々なデニムとの想い出も残るだろう。そして穿かずにワードローブの中で何年も寝かされ、気づいた時にはもうその生地や仕様など存在しないものとして珍重されるかも知れない。デニムはいろんな意味で育つのである。




さて、CITERA®が今シーズンリリースした06DMG DENIMについてだ。新品のデニムが自分に馴染み出すには、よっぽど激しく毎日穿き続けない限りは少なくとも半年以上はかかってしまうだろう。ということで、半年から1年程度ほどほどに穿いたくらいを目指した加工を施すことにした。洗いを我慢し頑張って硬い状態で穿き続けたご褒美に現れる色と質感が馴染んだ程度を表現したもの。綺麗な状態を維持させたい気持ちもあるし、早く小慣れた状態になって欲しい気持ちもある。そんなところを目指した加工デニム。






本来加工デニムといえば、リペアや補強の縫い込み、ペンキなどの汚しも含めガッツリ加工を施すものであり、こんなにも加工を施していないものはない。「そんなもの自分で穿けば半年や1年でできるだろうよ」と。だがしかし、現代人にとって「半年から1年かけて」なんていう言葉はピンとこない。ピンとどころかもうそんな時間は待てないのだ。とにかくすぐに欲しいと思うのが現代人だ。自分だってそうである。半年から1年かけて何かを、と先を考えながらとなるとやる気が失せてしまう。年齢から考えてみてももうそんな時間を割いてられないのである。時は刻一刻と失われていく。だから新品のデニムを穿き込むことも楽しくはあるが、もっと先を急ぎたい気持ちもあり、それを叶えたものがこのアイテムなわけである。現代人は江戸っ子さながらせっかちなのだ。




しかし、この加工してない様に加工する、ということが非常に難しい。加工場の職人さんはこの様な弱い加工に慣れていない。どうしたって強く加工してしまう。「そんなだったらもうやんないよ!」とサジを投げてしまうのではないかと、内心ビクビクしながら何度となく修正の指示を出し、またさらにやり直しのお願いをする。気に触らない様、細心の注意をはらいながら褒めつつも方向を替え、加工をしていない様に見せる加工をする方向に導いていくという、なんとも矛盾したやりづらい仕事であった。それでも何とか現時点で最良の形になったのでリリースができた。

もちろん、今後こういった作業を続けていく中でこれが未熟なものと思うことになるかも知れない。しかし、今はこれがもっとも良くできた結果なのである。


ものすごく自然に仕上がっており、真新しいものと並行してこのくらいの状態の物を楽しむことができるのは嬉しいのである。こういった加工に対応していただける加工場さんがあるのなら、とても細かいグラデーションの加工違いを濃いものから薄いものへと10段階くらいで用意できたら面白いだろう、なんて思えてくる。それは今後の課題として、できるかできないか、やれるかやれないか等事情や状況を考慮しつつ考えてみるのも良いだろう。ブランドを続けていく上で、必要なこと不必要なこと、そして不必要に見えて実は必要なことがある。果たしてそのグラデーションで揃えることは必要なことなのか?と問う。そしてそれを見極められるか、られないかによっても、そのブランドの価値が問われるものだ。


不必要に思えたとしても、製作に費やした努力によって見えてくるものや分かったことがある。それが今後どれだけブランドに影響を与えるか。恐らく大いにあるだろう、それはデニムに関わらず全体的な成長にも関わっていく。だからこそ、他にないものや、不得意なものは進んで行う方が良いのである。本物のブランドはそれを欠かさない。だから大きくなり、生き残るのである。偽物には目指さなくてもなれるが、本物は本気になって目指さないとなれないのである。だから遠回りしてでも行うべきことがある。このデニムはそういった意味を持った意義のあるアイテムなのだ。存在だけではなく、実際に穿くことでその良さがわかる。本物になるには想像を超えるほどの予想もつかない努力が必要なのである。

デニムは面白い。古いデニムをみると、それはどんな時代にどんな風に穿かれたか、どんな職業の人が穿いたかなど想像して楽しむこともできる。ゴールドラッシュ、戦争、反戦など時代に翻弄されながらも今も変わらずにその原型をとどめている稀な衣服である。




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